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オンリー・ハーツ

マリオはヴィットリオ広場に住んでいます。そこは、ウンベルト1世時代に造成された歴史あるエスキリーノ地区の中心部で、ローマで最も多くの民族が暮らす場所になっています。少なくとも60以上の民族が共に暮らし働いているでしょう。イタリア人がマイノリティーだと皮肉られるくらいです。「アビオン・トラベル」というバンドのピアノとキーボードの奏者であるマリオは、中庭や彼の家の中に侵入してくる、音楽のように響くさまざまなサウンドや言葉に魅了されたのです。やがて彼の思いがひとつの夢になったのでした。オーケストラという夢です。
まもなく彼の夢は、同じくエスキリーノに住んでいるドキュメンタリー映画作家アゴスティーノ・フェッレンテと出会い絆を結ぶことになります。そこには劇場がただひとつ残っていました。イタリアで最も古く美しい劇場のひとつアポロ劇場です。ボードビルをやった後映画館になり,ビンゴホールに姿を変えようとしていました。アゴスティーノの夢も、広場の周りの多様な文化と関わることでした。つまり劇場を救って地元の手に戻し、世界中から映画を集めてさまざまな教育や実習の場とし、さらに地域に住み働く人々の集会場にしたいという夢です。
これら二つの夢がアポロ11協会を結成する基盤になりました。それは、ミュージシャン、知識人、俳優、あらゆるジャンルの芸術家、この場所をこよなく愛する住民たちから成り立っています。アポロ劇場がエスキリーノのイメージを守りつつも、多様性のための劇場に変身することを願って協会は立ち上がります。
2002年10月14日、アポロ劇場前の路上で、アポロ11は劇場救済の支持を集めるためのライブコンサート開きました。それが、その後5年間に及ぶ人間と音楽の冒険の記録であるドキュミュージカルの出発点ともなりました。マリオが、外国に生まれ運命によってローマに連れてこられたミュージシャンたちを見出していく絶望的ともいえる旅のはじまりです。
すばらしい驚きや大いなる思い違いを経て、オーケストラは約20人のメンバーで結成されます。そこには、カトリック、モスリム、ユダヤ、ヒンズー教徒、無神論者がいます。音楽を生業とする者も夜中に車のフロントガラスを洗って糧を得る者もいる。楽譜を読めない自己流のミュージシャンもいればコンセルバトワールの学位をもっている音楽家もいる。2、3人のイタリア人がいる一方で、イタリア語を話すことさえできない者もいる。右翼体制また左翼体制の犠牲者、忘れてしまいたい過去を持つ者、帰るべき家が失われてしまった者がいます。様々なところからやって来たミュージシャンたち。ただ中国人だけはいません。近づきがたい彼らのコミュニティから何らかの共感を得るのは不可能でした。しかし彼らが運営する中国製の靴やTシャツの問屋はじわじわとエスキリーノの街を覆いはじめています。地元住民の苛立ちをよそに着実に根を拡げているのです。ほとんどの場合は右翼ですが、彼らに対するデモンストレーションは日常化しています。
よくあるメンバー内のゴタゴタ、協会の経済上の困難、厳格なボッシ=フィニ移民法による制約、移民たちが日々直面するお役所的な問題、そうした苦難もかかわらず「ヴィットリオ広場のオーケストラ」は、調和のとれた多様性というものに声と肉体を与えることに成功しました。それは「エスニックミュージック」とは異なるものです。なぜならすべてのメンバーが目標にしたのは、みんなが一緒に奏でるもうひとつの音楽だったのですから。多くの言語や楽器の結合にとどまらず、この5年間でさまざまな結婚が生じ、新たな色彩の子供たちが誕生したのです。
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